健康維持のために、筋力トレーニングをしている方は多いのではないでしょうか。
筋トレすることで筋肉が付き、運動能力が向上し、脂肪も燃焼しやすくなります。
そのため、筋肉は「力強さ」や「速さ」、そして「痩身」のためになるというイメージが強いかと思いますが、寿命など様々なことにも影響を与えています。
筋肉とは?
筋肉は、収縮することにより力を発生させ、弛緩することによって元に戻る働きをする、代表的な運動器官です。
筋肉の量は、筋肉を構成する蛋白質の代謝(合成・分解)によって決まりますので、合成が勝れば増え、分解が勝れば減ってしまいます。
なお、筋力は筋肉の断面積に比例しているので、筋肉が太いほど強い力が出せることになります。
筋肉の役割
筋肉には、体を支えたり、動かしたり、エネルギーを貯蔵するといった機能があります。
また、エネルギーを消費する際に発生する熱で、体温を維持する働きもしています。
筋肉の種類
骨格筋
骨格筋は、関節など骨格の可動部(腕や脚の筋肉、腹筋、背筋など)で体を支え、動かす働きをしています。
自分の意志で動かすことができます。
平滑筋
平滑筋は、心臓以外の内臓および血管を構成する筋肉で、血液を運んだり、胃腸を動かしたりする働きをしています。
動きは自律神経によって制御されています。
心筋
心筋は、心臓だけにある筋肉で、心臓の壁を作り、心臓を動かす働きをしています。
ご存じのとおり生きるためには動き続けなくてはならない重要な筋肉です。
動きは自律神経によって制御されています。
筋肉と骨をつなぐ腱
骨格筋の両端には腱があり、筋肉と骨とをつないでいます。
腱は、太い線維でできた組織で、筋肉が硬くなったものだと考えられています。
骨格筋と骨は腱で強力に結合されているので、関節を支点として、力点、作用点を形成することで骨をテコのように動かし大きな力を発生させています。
筋肉量の変化
この代謝には運動など生活習慣が深く関わっていますが、加齢にも影響されます。
筋肉量は、成長に従い増え、20代前半に最大になるといわれています。
そして、20代後半から50代にかかえて少しずつ筋肉量が減っていき、60歳になる頃に大きく減少し始めます。
60代になると20代の頃の50%程度に減少してしまうようです。
特に30~50代にあまり運動していないと、60代以降に筋肉が急激に減少する傾向にあります。
筋肉は細くなろうとする
生命活動において、エネルギーは重要なものなので、生きていくためにエネルギーを有効に使う必要があります。
そのため、エネルギーを多く消費する筋肉に対しては、必要以上に成長しないように制御が働いています。
この制御は、筋肉細胞から放出される「ミオスタチン」という物質によって行われていることが分かっています。
筋肉に負荷をかけると、筋肉の細胞は成長しますが、ミオスタチンを放出して、成長し過ぎを抑えます。
筋肉を太くするためには、ミオスタチンによる制御を超えるほどの、筋肉を使う必要があるということです。
頑張って筋トレしても、続けないと筋肉が減ってしまうのは、生命を維持するための制御なのです。
筋肉量の減少で高まるリスク
筋肉量は、加齢に伴い減っていきますが、筋肉量が減ることによって、肺炎や感染症、糖尿病など様々な病気になる確率も上がることが分かっています。
筋肉はエネルギーの貯蔵庫にもなっており、血糖値の調整を行う働きをしています。
食事をとると、血糖値が上がります。
その糖は、脂肪にも蓄えられますが、筋肉にも蓄えられます。
筋肉量が減ると、糖を貯蔵しておく場所が少なくなるため、同じ量の糖質を摂取した場合、筋肉が少ないと糖尿病になる可能性が高まります。
また、筋肉が減ると免疫機能が低下し、肺炎などにかかる人が多いことも報告されています。
なお、筋肉に蓄えられる糖は、筋肉のためだけ使われるので、血液中に再放出されることはありません。
一方、筋肉量の増加は運動能力の向上以上に利点があります。
歩く速さと健康寿命の関係性を調べた研究により、歩く速さが早いほど長生きする傾向があることがわかってきました。
歩く速さが早いということは、脚の筋肉量が多いということ。
筋肉量が多いということは、継続的に歩行や脚を使う運動を多くしていることになります。
「動く」以外の筋肉の働き
ミオスタチン以外にも筋肉が出す物質が発見され、筋肉細胞から放出される物質を総称して「マイオカイン」といわれています。(英語:Myokine, ミオカインと表記する場合もある)
マイオカインには種類があり、明らかになっていないものが多いですが、すでに同定されているものからは,代謝調節,抗炎症作用,損傷再生時の骨格筋量の調節など広範にわたっているようです。
参考文献:日本呼吸器学会誌 2015年4巻1号「ミオカインと骨格筋のバイオロジー」
インターロイキン6(IL-6)
IL-6はという物質が、「メタボリックシンドローム」が招くさまざまな病気の改善に働くと考えられています。
メタボの人の体内では、免疫細胞が正常に働かないことで全身の血管が傷付き、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病になる可能性が高まっています。
適切な運動をすることによって筋肉からIL-6が放出されれば、免疫機能を正常に保つ働きをすると考えています。
筋肉に関連する病気
加齢や生活習慣などの影響による筋肉に関する症状には、「サルコペニア」、「ロコモティブシンドローム」などがあります。
サルコペニア(筋肉減弱症)
サルコペニアとは、加齢に伴う筋力の低下および筋肉量の減少をいいます。
つまり筋肉量が減少することで、全身の筋力が低下および身体機能が低下している状態です。
サルコペニアになると、「歩く速度が遅くなる」「転んだり、骨折しやすくなる」「手すりにつかまらないと階段を上がれない」「ペットボトルのキャップを開けるなど今まで容易に出来ていたことが困難になる」「着替えや入浴などの日常生活の動作が困難になる」「死亡率が上昇する」など、様々な影響が出てきますので、これらのような自覚症状がある場合は、サルコペニアが疑われます。
65歳以上の高齢者に多く見られる症状ですが、デスクワークや自動車での移動が多いなど運動不足になりがちな場合、若い方でも筋肉が著しく減っているサルコペニア予備群になっている場合があります。
特に以下に該当する場合は、注意が必要です。
やせている(BMI 18.5以下)75歳以上の高齢者
特に蛋白質の摂取が少ない方は注意が必要です。
メタボリックシンドロームであるが、脚は細い
メタボや肥満を改善するために食事制限は行っていても、あまり運動をしていないような場合です。
このような方は、脂肪が多く筋肉が少ない「サルコペニア肥満」になっている可能性が高いです。
体重に対して支える筋力が少ないため、よろついたり、転倒し易い状態です。
若い女性
ダイエット目的で食事制限だけを行い運動をしないと、脂肪だけでなく筋肉も少なくなってしまいます。
ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドロームは、筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態です。
2007年、日本整形外科学会により提唱された概念です。
健康寿命を延ばすために運動能力を維持することとして、「ロコモ予防」という表現が使用されています。
ロコモかどうか自覚するために、ロコモ度チェックというものも公開されています。
筋肉を強くする食事
筋肉を効率よく増やすためには、運動だけでなく栄養も必要です。
中でも、蛋白質とビタミンDは重要です。
高齢者や過度のダイエットをしている場合は、蛋白質不足になりがちなので注意が必要です。
蛋白質
筋肉は蛋白質でできていますので、蛋白質や蛋白質合成の材料となるアミノ酸の摂取が特に必要です。
蛋白質は、肉・魚・卵・牛乳などに多く含まれる「動物性蛋白質」と、大豆や穀物などに多く含まれる「植物性蛋白質」に分けられます。
どちらも蛋白質だけでなく様々な栄養素を含んでいるので、バランスよくとるようにしましょう。
ただし、肉などから蛋白質を摂る際は、悪玉コレステロールの増加を抑えるために脂肪分の少ない赤身の肉にすることをお勧めします。
筋肉を維持するためには、成人の場合で、1日に体重1kgあたり、蛋白質1gを目安とされています。
ただし、サルコペニア傾向にある方は、もっと摂取が必要です。
また、腎臓が悪い方は、蛋白質の摂取制限が必要な場合もあるので、医師の指示に従ってください。
ビタミンD
ビタミンDには、筋肉の合成を促進する作用があります。
ビタミンDは、魚介類、卵、きのこに多く含まれていますが、日光を浴びることで体内でも合成されます。
夏は木陰で30分程過ごしたり、冬は30分~1時間程散歩に出かけたりする程度を目安とすること十分のようです。
日光を浴びるとシミや皮膚癌になることもあるので、浴び過ぎには注意は必要ですが、骨を維持することを意識して、積極的に外出する機会を作ることも重要です。
筋肉を強くする運動
筋肉量は加齢に伴い低下していきますが、運動することで何歳でも筋肉を増やすことができます。
筋肉は使い続けないと減ってしまうので、高負荷な運動を短期に行うより、無理のないペースで継続して行うほうが大切です。
継続して筋肉を使うように、基本的には日常生活の中で積極的に体を動かす習慣を身に付けることが大切です。
歩行だと、少なくとも1日6000~8000歩が目安のようです。
そして、より筋肉を強くするためには、同じ歩数でも速度を上げたり傾斜や階段を利用したり、トレーニングやスポーツなどで積極的に体を動かすことが必要です。
特に脚の筋肉は、加齢に伴う減少率が高いので、脚の筋肉を使う動きは効果的です。
また、日常生活では、関節を曲げる方向に筋力を使うことが多いと思いますが、伸ばす方向に動かすことを意識すると、普段使っていない筋肉を使うことになり効果的です。
くれぐれも、無理をし過ぎて関節を痛めないよう注意してください。
さいごに
いつの間にか増えている「脂肪」とは異なり、「筋肉」は努力して鍛えても、使わなければ減ってしまいます。
しかしながら、幸いなことに何歳でも筋肉を増やすことができます。
若い時に運動してたから大丈夫ではなく、今していることが反映されます。
また、負荷が少なすぎる運動を継続しても、現状の筋肉量を維持することもできなくなってしまいます。
そのことを意識して、自身の体や生活に見合った、負荷を感じる運動を継続することが大切です。
筋肉の減少は、行動そのものが制限されるので、身体活動量が低下してしまいます。
それが二次的に呼吸器や循環器機能などを低下させ、様々な病気になる可能性が高まると考えられています。
筋肉は貯金できないことを意識して、日頃から筋肉量を維持するように過ごすことをお勧めします。
参考記事
食品の表示分類