特に健康に気を使われていない方でも、ローヤルゼリーという言葉を一度は耳にしたことがあると思います。
健康食品や栄養ドリンクなどに使用されていることから、とにかく「健康に良いもの」といった印象だけはあるのではないでしょうか。
また、ほとんどが「ミツバチ」という表記や絵を伴っているので、ローヤルゼリーとはハチミツの一種やその成分と思われることもあるようですが、ハチミツとは全く異なる乳白色のクリーム様の酸味が強い物質です。
同じようなミツバチ関連の言葉に「プロポリス」というものがありますが、それもまたハチミツともローヤルゼリーとも全く異なるものです。
ローヤルゼリーとは?
ローヤルゼリーまたはロイヤルゼリー(英語:Royal jelly、邦文表記:王乳)とは、ミツバチの若い働き蜂が花粉や蜂蜜を食べ、体内で分解・合成し、上顎と下顎の咽頭腺や大腮腺から分泌する乳白色のクリーム状の物質です。
それは、女王蜂となる幼虫や成虫となった女王蜂のみに給餌される食物であり、自分たちの子孫を沢山残すための女王蜂を生み出す大切な栄養源であり、ミツバチの社会を維持するために必要不可欠なものです。
女王蜂だけが食べ続ける特別なゼリー様の物質なので、「Royal:王の」+「Jelly:ゼリー」 と命名されました。
ミツバチは、卵の段階では、働き蜂も女王蜂も同じで全く違いはありませんが、その後の生活が異なります。
働き蜂になる幼虫は、孵化してから3日目までのみワーカーゼリー(ローヤルゼリーより栄養価が低い物質)を食べ、4日目以降、蜂蜜と花粉を食べて成長します。
一方、女王蜂となる幼虫は、孵化してから生涯にわたり栄養価の高いローヤルゼリーを食べ続けます。
成虫となった働き蜂と女王蜂を比較すると、女王蜂のほうが体の大きさは2〜3倍大きく、寿命は30〜40倍も長いです。
また、働き蜂は卵を産むことができませんが、女王蜂は毎日約1,500個もの卵を産み続けることができるなど外観や能力が大きく異なります。
つまり、ローヤルゼリーは女王蜂の生涯において唯一の栄養源であり、働き蜂と異なる特徴を獲得するための特別食です。
基本的な体型や能力は遺伝子によって決まると考えられてきましたが、遺伝子的に全く同じ受精卵から孵化した幼虫が働き蜂と女王蜂という全く異なる特徴を持つ成虫になります。
食べ物が遺伝子の発現に影響することはローヤルゼリーの興味深い力であり、その力に関与する成分について研究が進められてきました。
蜂蜜との違い
ミツバチが採集した花の蜜が巣の中で加工、貯蔵されたものが蜂蜜です。
ミツバチによって採集された花の蜜は水分を含んだ状態で胃の前部にある蜜嚢と呼ばれる器官に貯え巣に帰ります。
巣へ持ち帰った花蜜が働きバチたちによって水分を蒸発させ熟成・濃縮されて、蜂蜜になります。
また、働き蜂は花の蜜を吸う時に、体に付いた花粉を後ろ脚の花粉籠というところに集め、一本の長い毛を軸にして花粉だんごを作ります。
こうして巣に持ち帰られた花粉だんごは、巣の中の働きバチにかみ砕かれ、巣房の底へと押し込まれます。
そして、巣房がいっぱいになるくらいたまると、その上に蜂蜜が塗られて、蜂パンという保存食として蓄えられます。
プロポリスとの違い
プロポリスは、ミツバチが植物の新芽や樹皮から集めた樹液とミツバチの腺分泌物が混ざってできたものです。
300種類以上の成分が含まれており「天然の防衛物質」とも呼ばれ、強い抗菌・抗酸化作用を持っています。
樹液には植物が身を守るための抗菌成分が含まれているので、プロポリスを巣の入り口や隙間に塗ることで、細菌等の侵入を防いだり巣を補強したりして、ミツバチの巣内を清潔に保っています。
そのため、ミツバチの巣内はほぼ無菌状態に保たれているといわれています。
参考記事
【プロポリス】効果の決め手は抗菌力、ミツバチを守る複雑な成分の中身
ミツバチからしか採取できない
ローヤルゼリーは、ミツバチ以外の種類から採取することはできません。
世界中に存在する約4000種類といわれる蜂のうち、日本に生息する代表的な蜂はスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチの3つに分類できますが、スズメバチやアシナガバチはミツバチと違って肉食です。
花の蜜を吸うこともありますが、巣に蜜を貯める習性はありません。
女王蜂を中心とした社会をつくっているのでローヤルゼリーに代わる何らかの成分を持っている可能性はありますが、その成分はまだ特定されていません。
ローヤルゼリーの分類
日本では「ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約」(昭和54年9月25日公正取引委員会告示第27号)によって、ローヤルゼリーは以下の3種に分類されており、それぞれの表示について性状や組成などに応じた厳しい基準が規定されています。
生ローヤルゼリー
みつばちが女王蜂を育成するため、その咽頭腺等を通じて王台中に分泌したものであって、移虫後72時間以内に採取したものをいう。
乾燥ローヤルゼリー
生ローヤルゼリーを凍結乾燥その他の方法により乾燥処理したものをいう。
調製ローヤルゼリー
生ローヤルゼリー又は乾燥ローヤルゼリーに乳糖、はちみつ等の調整剤、添加物等を使用し、調製(錠剤、カプセルその他剤型品の調製は、品質保全のため必要な場合に限る)したものであって、使用した生ローヤルゼリーの重量が全重量の6分の1以上のものをいう。
ローヤルゼリーの主な成分
ビタミン、ミネラル、アミノ酸をはじめ、数十種類に及ぶ栄養素が豊富に含まれています。
含まれる栄養素等の種類
ヒトが生きていくために必要なエネルギーを作る炭水化物・タンパク質・脂質を三大栄養素といいます。
そして三大栄養素の代謝をサポートする役割であるミネラルとビタミンを加えたものを五大栄養素と呼んでいます。
上記のとおりローヤルゼリーは、その栄養素のいくつかを含んでいますので、それぞれについて少し掘り下げて以下に示します。
ビタミン類
三大栄養素以外の有機物の総称、野菜や果物に多く含まれています。
種類 |
ビタミンB1 |
ビタミンB2 |
ビタミンB6 |
ビタミンB12 |
葉酸 |
ナイアシン |
ビオチン |
パントテン酸 |
イノシトール |
アセチルコリン |
ミネラル
三大栄養素以外の無機物の総称、乳製品や海藻に多く含まれています。
種類 |
カリウム |
ナトリウム |
リン |
カルシウム |
銅 |
マンガン |
鉄 |
マグネシウム |
亜鉛 |
アミノ酸
三大栄養素の一つ、肉や卵に多く含まれています。
私たちの体を構成している蛋白質はアミノ酸が結合したものです。
ローヤルゼリーは、必須アミノ酸含有量のバランスの良さを示す「アミノ酸スコア」は満点の100点で、非常に良質なタンパク源といえます。
- 必須アミノ酸:体内では合成できないため食物から摂取が必要なアミノ酸
- 非必須アミノ酸:体内で合成可能だが有益なため摂取したいアミノ酸
必須アミノ酸 |
リジン |
メチオニン |
フェニルアラニン |
バリン |
ロイシン |
スレオニン |
イソロイシン |
トリプトファン |
ヒスチジン |
非必須アミノ酸 |
アルギニン |
プロリン |
セリン |
グルタミン酸 |
グルタミン |
チロシン |
タウリン |
β-アラニン |
アラニン |
シスチン |
オキシプロリン |
グリシン |
アスパラギン酸 |
アスパラギン |
GABA |
糖質
栄養学上、炭水化物は糖質と食物繊維の総称です。
三大栄養素のひとつである炭水化物は、主に糖質を指します。
食物繊維は消化酵素では分解できずエネルギー源にはなり難いものですが、糖質は体内では身体および腸内細菌のエネルギーとして使われます。
その他の成分
種類 |
デセン酸 |
ビオプテリン |
ロイヤリシン |
ロイヤラクチン |
アピシン |
摂取量の目安
日本健康・栄養食品協会の情報によると、日本人成人では1日に生ローヤルゼリーを基準とした目安が500~3000mgとされています。
この6倍もの幅は、摂取する人の性別や年齢、身体の大きさによって摂取量を調節すること、および体調や体質などによって量の調整が必要なためです。
ローヤルゼリーは摂取すればするほど良いというわけではなく、毎日継続的に摂取することほうが望ましいとされています。
そのため、身体の様子を確認しながら摂取量を調整し、体調面やコスト面など様々なことを考慮して、自身にあった摂取量を決めていくことが推奨されています。
注意
ごく稀に喘息および食物アレルギーを持つ人において、ローヤルゼリーに含まれているタンパク質が原因で喘息や蕁麻疹、アナフィラキシーを含む重いアレルギー症状が引き起こすことがあります。
そのため、ローヤルゼリーを含む健康食品には、喘息や食物アレルギーを持つ人へ飲用を控える旨の表示が必要となっていますので、その点にご注意ください。
また、妊娠中や授乳中の方も摂取は控えてください。
上記を含め、摂取前後に限らず他に気になることがある方は必ず医師に相談ください。
さいごに
ローヤルゼリーの高い栄養価については全世界で認知され、世界各国の科学者により、これまでに様々な研究結果の報告がなされています。
しかしながら、有益な結果を科学的に検証した研究はまだ不足しているため、更なる実験および検証が必要とされます。
ローヤルゼリーはミツバチからしか与えられませんが、通常は少ししか採取できません。
そこで、養蜂家は人工的に王台を作って、効率よくローヤルゼリーを生産できるように管理していますが、それでも大量生産できる訳ではないので、ローヤルゼリーは非常に貴重なものであるといえます。
私たちに必要な栄養素は基本的に食事からも摂取できますので、健康維持のためには日々バランスの良い食事を心がけることが前提ですが、より健康になりたいと考える方にとってローヤルゼリーへの期待は高いと思われます。
また、デセン酸やビオプテリンなど、ローヤルゼリーにしか含まれていない成分は、通常の食事からの摂取は不可能です。
ローヤルゼリーを主とした健康食品の一例を紹介しますので、興味のある方は以下をご覧ください。